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エスペラントに対する既視感について

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はじめに

エスペラントという人工言語があります。エスペラントの言葉の多くはヨーロッパの諸言語にすでに使われていた言葉から作られています。日本語を母語とする私にとっても既視感のある言葉が多く面白いので、ここで少し紹介します。

そもそものエスペラントについて

この記事は日本語で書かれています。日本語は、昔から日本にあった口頭言語に大陸から伝来した漢字が合わさり進化を遂げてできた言語です。自然と発生したという意味で、自然言語と言われます。

一方のエスペラントは、ルドヴィコ・ザメンホフという人が中心となって作り出した人工言語です。

人工的に作られた言語というと、何やら怪しげな印象を受けるかもしれません。プログラミング言語のようなものだとか、物語に出てくる異世界語だとか……。実際にそのような人工言語も存在しますが、エスペラントは違います。エスペラントは、母語の異なる人々がコミュニケーションを取るときに使うために作られた、国際補助語というものです。

ルドヴィコ・ザメンホフは、当時はロシア帝国領だったポーランドに生まれました。そこはいくつかの民族が入り交じるような場所で、常に民族間で不和が起きてしまっていました。それを憂いた彼は、「共通の言語があれば意思疎通が取れてよいのではないか」と考えます。さらに、「どんな言語を母語とする人でも習得しやすい言語があればよい」とも考えました。そうしてエスペラントが生まれたのです。

このような経緯で生まれたエスペラントはとても規則的で学びやすい言語で、その規則性(不規則動詞の少なさ)はギネス世界記録として認められるほどです。またそれだけでなく、ヨーロッパで使われている諸言語から語彙を採用したため、それらの言語を母語とする人にとってさらに学びやすくなっています。

例文その1

そんなエスペラントですが、日本語を母語とする人にとっては学びやすいのでしょうか。次のエスペラントの文を見てください。

Mi amas vin.

これは次の英文と等価です。

I love you.

さて、この文について少しお話しします。

まず、英語ではSVO文型と呼ばれる形で言葉を組み立てます。一方のエスペラントでは自由ですが、多くの場合はSVO文型です。例文もSVO文型で、空白で区切られたそれぞれの単語はその位置の英単語と対応しています。

文頭を大文字にしたり、句点として.を使ったりするのも英語と同じですね。

amasに着目してください。これは愛するという現在形の動詞で、英語のloveと意味は同じです。過去形になるとamis、未来形になるとamosとなります。エスペラントにおいて動詞はどれも規則的に変化し、語尾によって時制などの細かな意味が変わります。現在形が-as、過去形が-is、未来形が-osです。

さて、エスペラントのamasは英語のloveと対応していると言いましたが、それは動詞としての話です。英語の名詞としてのloveと対応しているエスペラントはなんでしょうか? ……それは、amoです。エスペラントにおいて名詞はすべてoで終わります。語幹としてのam-に品詞語尾としての-oを組み合わせたのです。わかりやすいですね。

愛はamo……amoは愛……。どこかで聞いたことはありませんか?

イタリア人「アモーレ!」

そうです。イタリア語で愛人を表す言葉のamoreととてもよく似ています。

例文その2

エスペラントで挨拶をしてみましょう。朝、昼、夜の挨拶は次の通りです。

Bonan matenon!
Bonan tagon!
Bonan vesperon!

bonanという共通部分がありますね。また注意深い人であれば、2語目の-onという終わり方にも気が付くでしょう。

エスペラントにおいて対格は、言葉の最後にnを付けることで表します。対格とは日本語でいうところのです。先程のMi amas vin.を思い出してください。miで、viあなたで、amas愛しているです。そういうわけで、Mi amas vin.私はあなたを愛しています。となるのです。

Bonan matenon!は2つの単語の両方に対格の-nが付いています。一致というやつです。つまりこれは、(bona mateno)を!という意味になっているのです。

先程、名詞の品詞語尾は-oであるという話をしました。このmatenoは名詞です。ではその名詞の前の単語はなんでしょうか? 一致として-nを一緒に付けたということは、bonamatenoに係っていると考えられます。

正解を言うと、bonaは形容詞です。形容詞の品詞語尾は-aなのです。

さてここまで来ると、勘のいい人は気付くでしょう。日本語で言うところのおはよう!は、(形容詞 + 名詞)を!となっているのですから。

そうです。Good morning!です。良い朝を!です。

bonagoodという形容詞であるとわかりました。どこかで聞いたことはありませんか? 例えばご飯が美味しかったとき、英語ではGood!と言いますが……?

イタリア人「ボーノ!」

そうです。イタリア語でおいしいすばらしいを意味するbuonoと似ています。

例文その3

さて、エスペラントでも愛の告白と朝昼晩の挨拶ができるようになりました。次に覚えるべきはありがとう!でしょう。

Dankon!

これもまた、対格の-nが付いています。が、そんなことより、どこかで聞いたことはありませんか?

ドイツ人「ダンケ!」

そうです。ドイツ語でありがとうを意味するDankeです。

おわりに

この記事では、愛の告白と朝昼晩の挨拶と感謝のエスペラント文から、その特徴である規則性とヨーロッパ的語彙についてまとめました。ここで紹介した以外にも、どこかで見聞きしたことのある言葉というのはたくさん出てきます。「あぁ、この言葉ってあの言語のあの言葉か!」という発見があって、エスペラントの勉強はなかなか楽しいです。よければぜひ。

ちなみに私は、(こんな記事を書いておきながら)エスペラントについてほぼ無知です。ここに書いた知識がほぼすべてです。Pardonon!