個人情報を売らないVivaldiはどのように儲けているのか?
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はじめに
Vivaldiブラウザを開発するVivaldi Technologiesは、こちらの英語記事で、Webの世界で日常的に行われてしまっているユーザー追跡型の広告の話とともに、「一部のWebブラウザ」の安全性について警鐘を鳴らしています。
The most popular browser happens to also be owned by the same company that operates the majority of the surveillance-based ads. This is not a coincidence.
最も人気のブラウザは、偶然にも、監視ベースの広告の大部分を運営する会社と同じ会社が所有しています。これは偶然の一致ではありません。
ここで取り上げられている「一部のWebブラウザ」とは、ご想像の通り、Google Chromeです。Web広告の代理店として最大手であるGoogleがWebブラウザを開発しているについて、偶然の一致ではなく、GoogleはGoogle Chromeの開発によって広告事業で儲けを出していると指摘しています。
しかしここで少し考えてみると、VivaldiもまたWebブラウザのベンダーであり、Googleと同様のことをしていてもおかしくはありません。しかしVivaldiはユーザーの行動を追跡した内容などを売り渡すようなことはしていないと主張しています。
私たちはあなたの行動を追跡しません。さらに、インターネット上であなたを追跡しようとしている他のトラッカーもブロックし、みなさんの個人情報を常に安全に状態保ちます。また、他者からの閲覧履歴をのぞき見や、オンラインで何をしているのかの追跡も心配することなく自由にブラウジングできます。
Vivaldiの日本語トップページより
ではどのように儲けを出して、継続的な開発を行えるだけの金銭を得ているのでしょうか。
Vivaldi公式による解説記事
Vivaldiは「Vivaldiブラウザのビジネスモデルってなに?」という記事で、Vivaldiがどのようにして儲けを出しているのかについてまとめています。詳しくはリンク先を参照していただくとして、軽く要約すると次の2点になります。
- 検索エンジンと提携し、Vivaldiにインストール時点で登録されたそれらの検索エンジンをユーザーが使用して検索することについて対価を得ている
- Webサービスと提携し、Vivaldiにインストール時点で登録されたそれらのブックマークをユーザーが開くことについて対価を得ている
Vivaldiは提携先からの収益によってVivaldiの開発などを成り立たせていると主張しています。このようなビジネスモデルは実際に成り立つものなのでしょうか。
FirefoxとGoogleの提携
Mozillaの開発するFirefoxというWebブラウザは、過去、Googleと提携していました。その内容はVivaldiが各検索エンジンと提携しているという上記のビジネスモデルとほぼ同じものです。
この3年間、Mozillaは経済的に裕福だった。Googleとの検索契約により、Mozillaはこの3年間、同社から年額3億ドルを受け取ってきたからだ。
ZDNETによる記事(実は2014年に終結していた?—ブラウザ戦争の現状をおさらい)
また、GoogleはAppleに対し、Safariのデフォルトの検索エンジンになるために巨額の対価を支払っているというニュースもあります。
GoogleはAppleの標準ブラウザであるSafariの「デフォルトの検索エンジン」になるため、毎年巨額をAppleに支払っているとされています。この契約は独占禁止法違反に当たるとして、集団訴訟が提起されました。
GIGAZINEの記事(Googleが検索エンジンの地位を守るためAppleに1兆円超を支払う件で集団訴訟)
こういったビジネスモデル自体は、これといって特異なものではないということです。
ちなみに、Vivaldiに標準で登録された各検索エンジンは基本的にはVivaldiの提携先ですが、一つだけ例外があるとされています。それがGoogle検索です。VivaldiにGoogle検索が標準で登録されているのは、ユーザーからの需要があるためだとされています。また、2024年1月現在、Vivaldiの既定の検索エンジンはMicrosoft Bingであり、Google検索を使うには設定を変更する必要があります。
Firefoxの広告ショートカット
Vivaldiには、スピードダイヤルという名前で、ブックマークを新しいタブにタイル状に並べるという機能が搭載されています。同様の機能はFirefoxにもあり、こちらはショートカットと呼ばれています。そしてFirefoxでは、インストール時点で広告がショートカットとして登録されています。(記事執筆時点ではBooking.comとHotels.com。)
Vivaldiの、Webサービスと提携してブックマークとしてそのWebサービスへの導線を配置する、というビジネスモデルもまた、特異なものではありません。
関連記事:
実際問題、Vivaldiの懐事情は大丈夫なのか?
おそらく大丈夫です。
Vivaldiが自身のビジネスモデルについて解説したその記事では、Vivaldiの提供するメールサービスなどについての運営費もこのビジネスモデルで得た収益によって賄われているという話がされていました。その記事が書かれた2019年から4年以上が経過した記事執筆時点でもメールサービスの提供は継続しています。
また、その記事が投稿されたあと、VivaldiはVivaldi SocialというMastodonサーバーの提供も開始しました。6700人のアクティブユーザーを擁するSNSを運営しているのです。SNSの部分(Mastodon)を一から開発したわけではないにしろ、サーバー上でそれを動かしてVivaldi Socialとしてサービスを提供するのには、当然お金がかかります。それを支払うことができているのは、ひとえにVivaldiにゆとりがあるためでしょう。
おわりに
たとえChromiumをベースにしたものであったとしてもWebブラウザの開発にお金がかかるのは事実で、しっかりとしたビジネスモデルを構築して稼ごうとしなければならないのも事実です。Vivaldiのビジネスがこれからも順調であることを祈ります。
また、VivaldiだけでなくFirefoxを開発するMozillaも、Webブラウザの多様性とGoogleによる独占の防止において重要であるため、Mozillaのビジネスが順調にいくことも願います。