はじめに
電子的な計算機が生まれるより前にも、大規模な乗除算をしなければならない場面はありました。例えば大航海時代。当時はGPSなんてものはありませんでしたから、天文学を駆使して星空の見え方から現在の位置を求めるということが行われていました。遭難や難破を避けるには、その計算は十分に高い精度で行う必要があります。よって高精度かつ大規模な計算をする必要があったのです。しかしそのような計算を手で行うのは大変です。そこで生まれたのが対数。対数の性質を利用すれば、乗除算は加減算へと変換できます。
そしてこの「対数を活用した計算」を推し進めて道具として使えるようにしたものが計算尺です。計算尺は対数目盛の書かれた複数本の物差しによって構成されています。対数の性質を使うことで乗除算を加減算に変換し、複数本の物差しをずらして並べることによって加減算を表現するのです。……といっても少しわかりづらいので、いくつか例を挙げて、段階的に説明していきましょう。
物差しでの加減算について
まずは複数本の物差しでの加減算についてです。よくある普通の物差しが2本あるとします。このとき、どちらも目盛は1cmずつ等間隔で並んでいて、目盛には左から右へ1ずつ増えていくように数字が振られているとします。最初の数字は0です。また、説明のため一方の物差しをA、他方をBとします。
これらを使うと、単純な加減算が表現できます。例えば、3と6の和は次のような手順で計算できます。
- 物差しAを第1項と見立て、その3cmの位置に物差しBの0cmを添えます。
- 物差しBを第2項と見立て、その6cmの位置が物差しAではどこにあるのか調べます。
- どうやら物差しAでは、その位置は9cmなようです。よって、3と6の和は9だとわかります。
これと同様に減算も、各項の大きさを長さに見立てることで、物差しをずらして計算できます。
対数について
さて、加減算についてはよくある物差しをずらすことでできるようでしたが、乗除算も同様に行うには、目盛が対数スケールで振られている必要があります。逆に言うと、対数スケールで振られてさえいたら乗除算も可能です。
対数とは端的にいえば、「ある数がある別の数を何乗したものか」です。16は2の4乗で、これは「16の2を底とする対数は4である」といえます。同様に32は2の5乗で、これは「32の2を底とする対数は5である」といえます。
ではここで、16と32の積を計算してみましょう。単純に暗算することもできますが、ここではせっかくなので、16が2の4乗で、32が2の5乗であるという事前知識を使ってみましょう。累乗の基本的な性質として、です。よって、16と32の積は2の9乗となります。
これを一般化すると、ある数の適当な底における対数がで、別の数の同じ底における対数がだったとき、との積はその底の乗であると言えます。ある底におけるそれぞれの数の対数がいくらかまとめた表があれば、この乗算は表から得た数字同士を足し合わせるだけで行えるのです。そして前述の通り、加減算は物差しで表現可能です。
物差しでの乗除算について
計算尺を構成する複数本の物差しでは対数スケールで目盛が振られていて、目盛上の数字と長さは、ある数の対数がどれだけ大きいかを表します。これにより、対数表を見る必要がなくなります。例えば2と3の積は次のような手順で計算できます。
- 物差しAを第1項と見立て、その2の目盛の位置に物差しBの1を添えます。
- 物差しBを第2項と見立て、その3の位置が物差しAではどこにあるのか調べます。
- どうやら物差しAでは、その位置は6なようです。よって、2と3の積は6だとわかります。
(ちなみにこれは標線法と呼ばれる方法での乗算で、計算尺ではC尺とD尺を使うものです。)
計算尺の自作
これは極端な話ですが、計算尺は対数目盛を書き込んだ2枚の紙で代用可能です。実際の計算尺は多機能かつ高精度ですが、似たようなことを遊びとして行うことは紙でもできます。
方法は単純。スプレッドシートなどの適当なツールを使って、ある数の対数がどのくらいの大きさかを求めておき、その大きさを元に紙に目盛を書いていくだけです。
おわりに
でも多分Amazonで既製品をぽちった方がいいと思います。
この計算尺は円形をしていて、従来の計算尺で操作中に起きてしまう「目外れ」が起きないというメリットがあります。
欲しいなぁ……。
以上、対数の基礎と計算尺モドキの自作方法を、計算尺を持っていない私が解説しました……。